第六章  速やかに退却せよ

 

 

 

開戦当日の早朝。まだ曙の段階から、敵は私たちの野営前に現れた。

「敵だっ! おい、敵が見えたぞぉーっ!」

 物見櫓に登り、川の向かいに目を張っていた兵士が、うっすらと近づいてくる大軍を確認したのである。すぐに合図の金太鼓を叩いた。その耳を裂くような、高くけたたましい太鼓の音色に、テントで寝ていた兵士たちが次々に飛び出してきて、それぞれの持ち場へと走った。用意のいいことに、皆、鎧をきちんと着こなしている。当然、私もだ。

「速やかに陣形を整えよ! 慌てることはない!」

 太鼓のやかましい音で眠りの淵から引っ張り出された私だったが、目立った寝ぼけもなく、毅然とした態度で副師団長としての勤めを果たしていた。しかし、そんな状況に陥って真に以って遺憾のことながら、このグラウコーピス軍の師団長は未だにその姿を衆目に晒さなかった。あの馬鹿女は未だにテントの中で熟睡中だ。その弟、ヘルメスまでも。

 橋を守るサトゥルの軍勢は二千五百。この二日の内にもう一個師団が駆けつけてきて、私たちとは別に、橋の防御に努めていた。そっちでも私のように指揮を執るものがおり、彼らによって、兵士たちは急速に戦闘態勢を整えて行った。おいおい、こっちの師団長より遥かに優秀だぞ?

「騎馬隊は現状待機! 歩兵は槍を用意せよ! 弓兵は弓兵頭の指示に従って一斉に矢を射掛けろ! 馬防柵がある! 何一つ慌てることはない!」

 朝、まだ太陽も昇らない頃合だというのに、私は元気高々に声を張り上げていた。黒馬にも跨り、剣を片手で握りながら、馬上にて祖国の兵どもの行軍を見つめた。敵兵は赤生地に白のドラゴンを描いた国旗を三本掲げ、さらには師団旗もその後ろに掲げている。

 私の記憶が正しければ、彼らはジュピネルの第六師団。歩兵を主力とした迅速行軍部隊だ。戦闘能力はそこそこだが、彼らは足がとにかく速い。二日かかる行軍もおよそ一日と半分で済ませてしまう。

「アティナ様、一気に畳み掛けましょうか?」

 と最初の攻撃を仕掛ける弓兵の隊長、弓兵頭が焦る様子もない表情で私に尋ねた。

「いや、少し待て」

 私は対岸に到着して陣形を整える敵へと視線を送る。弓兵の数が圧倒的に少ない彼ら。橋に馬防柵を構え、更には矢を防ぐ盾を備え付けている。しかし、どれもこれも戦術の基礎を実行しているに過ぎない。しかも、こちらも馬防柵を構え、向こうも同じようにして構えているのでは騎馬隊戦もできない。これでは完全なる持久戦になるであろう。

「援軍でも待っているのか?」

 と私は思った。攻撃力のある装甲騎兵師団でも向かっているのであれば、それはそれでかなりの脅威だ。しかし、所詮は橋の上、分厚い鎧を身に纏っているとしても、矢を雨のように受け続ければ全滅は必死だ。チェスで言う、クイーンの単独突撃など無意味に等しい。

「まさかな。しかし、ならば奴らは何を待っているんだ? 挟撃にでもするつもりなのか? だが、私たちの背後に廻れるような部隊などいるのか?」

 マニュアルどおりではない陣形に、私は腕を組みつつも考えを張り巡らせた。奴らの数は不明ながら、今ならば突破は適う。だが、罠の可能性も十分に考えられるため、私はそれらも含めた上での検討をする。

「うわぁ! わ、私が寝ている間に凄いことになってるよーっ!」

「ま、不味いよ姉様! 急いで持ち場に着かないと!」

「そ、そうだね、メイス! 急ぎましょう!」

「ああ! 姉様! また剣を忘れてるよ!」

「ああ?! あ、ありがとう、メイス!」

 誰だ? この緊急事態の最中にふざけたボケをかましているのは。まぁ、奴らしかいないだろうな。あとで、その綺麗な頬に真っ赤な私の手形をつけてやろう。もう二度と取れないぐらいにな。

「……ようやく起きたのか」

もはや、いつ戦いが始まってもおかしくない状況で、彼女が響かせた馬鹿な一言は、大いに私を落胆させた。こいつはどうしようもなく戦場という緊迫の続く場所が似合わない。城に戻って、優美な音楽が流れている中で貴公子と踊ってろよ。白い鎧よりも、白いドレスのほうがよく似合うと思うぞ? そしてそのまま貴公子とベッドに入って楽しめ。私の操の心配が無くなる。

「粗方のことはやっておいたぞ。あとは戦いあるのみだ。いつでもいいぜ、師団長さんよ」

「は、はい!」

威勢のいい声を上げ、馬廻り役が用意した白馬に跨るアルテミスだったが、彼女は眼前に陣を組んでいるジュピネルの兵士たちをもの悲しそうに見つめていた。先の戦いの記憶がフラッシュバックしているのだろう。新兵によくあることだ。だが、戦いが始まればすぐに納まる。

「アティナ様、俺は何をすればいいのでしょうか?」

 と、今回が初陣になるヘルメスが、私の隣に馬を並べて尋ねてきた。

「お前はアルテミスの横にいろ。お前は私の補佐官ではあるが、グラウコーピス軍はアルテミスの指揮下にある。撤退、突撃、全ての指令を出すのはアルテミスだ。奴の補佐を頼む」

「了解です!」

 ヘルメスはそう言って馬をアルテミスへ走らせようと、馬を回頭させた。

「ヘルメス」

「なんですか?」

「何があっても死ぬなよ。私はまだ、お前と深く愛を育んでいないのだからな」

「はい! 俺もそう思ってました!」

 ヘルメスはニッコリ笑って、アルテミスの隣に馬を並べた。だが、そんな彼はアルテミスの嫉妬に満ちた鋭い視線が向けられていることに、全く気づいていないようだった。さきの腹黒アルテミスが戦闘の混乱に乗じてヘルメスを暗殺しないか不安だ。

「アティナ!!」

 戦闘態勢が整ってから五分後。それぞれ、馬に跨ったアフロディテとヘスティアの二人が私の傍までやってくる。

「おう。敵が見えたぞ」

「そんなのわかってるわよ。で、一当てするの?」

「さぁな。その辺を決断するのはアルテミスだ。私は別にやってもいいとは思っているが、無駄な犠牲を出すだけで終わると思う。お前はどう思う?」

「そぉね。私もこの状況で無理に挑んでいくのは無謀に思えるわ。橋を渡ろうとすれば、矢の雨を浴びることは必定。もし渡れたとしても、確実に包囲されて膨大な犠牲が出かねないわね。って、新聞記者に聞くな」

「そりゃそうだな。悪かった」

 だが、アフロディテの言うとおりだった。未だ、両陣営は国境線を越えようとはせず、互いに睨みあう形でエリダヌス川を間に留まった。中腹の国境警備所にいるそれぞれの国の警備兵たちも、自分たちがどうしたらいいかわからず、困惑している。引き上げさせても良かったが、使いが万が一にでも攻撃を受けたら、それを合図に均衡が破れかねなかった。

「フロディア。昨日も言ったが、お前は軍人じゃない。ティアだけを守ることに専念しろ」

「分かってるわ。ティアはきっと私が守って見せる」

 すると、アフロディテの後ろで手綱を握っていたヘスティアがとても嬉しそうに顔を赤らめている。あれー? このパターンどっかで見たなぁー。

 と、私がアルテミスのほうを向くと、アルテミスは私のほうを見て、天使のような微笑を浮かべてきた。なるほど。あのバカあってこその、ヘスティアか。流石は従姉妹同士だろう。

「なぁ、フロディア……。同性愛って、どうなんだろうな」

「な、何よ急に……」

「いやぁ、なんだかさぁー……」

「私はイヤよ。どうせだったら素敵な殿方と恋愛したいわ」

 アフロディテがそう言った瞬間、背後にいたヘスティアが凄まじい驚き顔を見せて、ガックリと前に頭を垂れた。

「だよなぁー。私はヘルメスさえいればいいんだがなぁー」

「ああ、アルテミス様のことかぁ。嫌なら断ればいいのに」

「それができりゃ苦労しないさ……」

「だ、大丈夫? 戦始まる前に燃え尽きてない?」

「このまま国に帰ろうかな……」

「おい、アティナ! 冗談でもそう言うこと言うな!」

鳥の鳴き声が空にざわめき、川のせせらぎがいつもより大きく聞こえてくる。夏場はこういう場所でのんびりと肌を焼くのもいいかもしれん。遠い異国には海なるものもあるとか。一度でいいから行ってみたいものだ。私の水着姿を惜しげもなく晒して、男どもの視線を奪ってみたい。と、私が不遇な身の上から逃避している内も両軍の動きはなかった。

一時間……。

二時間……。

 三時間……。

 私が妄想に妄想を重ねる中、両軍は一触即発を維持し続けた。

「アティナ。敵に全く動きが無いわね。それどころか、やる気あるのかしら……。向こうは攻めというよりは、守りの陣形のように思えるわ。馬防柵を橋の上に置き、その裏に弓、槍兵。そのあとに剣兵、そして騎馬隊。攻める際はこの順序が逆になるはず……」

 と、ずーっと私の隣で馬に跨っているアフロディテが言う。

「ああ。私もそう思ってた……」

私も見守る先、ジュピネル軍は酷くのんびりしている。彼らはこちらの兵の疲弊が目当てなのか、それとも奇襲のために夜を待っているのか、後方の援軍を待っているのか。いずれにせよ、いつでも攻め込む体勢を整えているこちら側と違い、向こうはその気配すらない。まったく私には理解できなかった。

彼らは兵種から高速機動部隊に間違いない。せっかくの迅速な部隊を送っておいて、こんなにも時間を無駄にすごさせるのであれば、最初から強力な部隊を差し向けておけばいい話だ。一体、この作戦の発案者は何を考えているのか、阿片でもやっているのだろう脳みその中を見てみたいものだ。

「極力、南北の橋には戦力を向けず、中央突破でも目論んでいるのかしらね」

「だが、そうなればこちらに救援要請の知らせが届いてもいい頃だ。異常を知らせる狼煙や早馬はまだ確認できていない」

「じゃあどうして……」

 アフロディテもこの状況に納得が行っていない様子であった。っておい待て。どうして民間人のアフロディテが参謀みたいなことをやっている。私の参謀はどうした、私の参謀は……。いくらアルテミスに付くように命じてあったとしても、意見を提言しに、こちらへやってきてもいいではないか。

 私がヘルメスを探して首を回すと、奴はアルテミスと暢気に談笑していた。しかも、馬から下り、テントの前でチェスなどやっている。おそらくは、橋を守るグラウコーピス軍の中で、奴らが一番、緊張感が無いであろう。

「あいつらっ……」

「前途多難ね、アティナの部隊は」

「フロディア、私の参謀になってくれないか?」

「嫌よ」

 アフロディテは即答した。

「そうですぅ。フロディアさんは私たちの先輩なんですぅ」

 と、ヘスティアがアフロディテの真横に馬をくっつけて笑った。

「ええ。その通りよ、ティア。私は新聞記者。もう二度と軍には戻らないし、政には関わらないわ」

「ああ、そうかい」

 クソ。どうしてこうも私の周りは癖のある人間しかいない。ジュピネルにいた頃もそうだった。まともだったのは母だけだ。

「はぁ。私も休憩しようかな……。チェスでも一つ――」

 そう冗談をこぼした瞬間、私の脳裏に何かが稲妻のように駆け巡った。

 そうだ、作戦の発案者は私が認めた『あの男』なのだ。

「待てよ? 先例に任せても奴は並大抵の作戦立案なんかしてくるわけがない。定石をぶっ飛ばしたあの人なら……はっ?!」

 私は目を鉛筆で打った点並にし、完全に体の自由を走った稲妻に奪われた。次第に汗が額に浮かび、頬を流れる。血の気も顔から引き、手足が震えてきた。ゴクリと息も呑んだ。

「ど、どうしたの、アティナ?」

「アティナ様?」

 明らかな動揺に不安を見せるアフロディテとヘスティア。

「あ……ああぁ……」

私の政略結婚。私の暗殺未遂。目的不明な一週間前の国境紛争。すぐではなかった開戦。そして、奴の存在。私はそれら全てを一気に紐で結び、一括りにすることができた。その答えも。

「あ、アティナ?!」

 馬上にて頭を押さえ込む私にアフロディテは隣へと馬をつける。また、彼女の叫び声を聞いて、後ろでチェスをしていたアルテミスやヘルメス。ほか、周りにいた兵士たちが慌てふためきながら駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか?! どこか、ご気分でも優れないのですか?!」

 アルテミスが心配そうに眉を潜めながら尋ねてくる。違う。そんなことではない。もっと重要なことだ。

「総員、陣を放棄せよ! これより、迅速にタイタニアへと戻る!」

おそらく私の言葉をすぐにでも理解できた人間はいないだろう。

「「え?」」

奴の狙いは最初からこの橋でも、川でも、国境でもなかった。奴の狙いは最初からサトゥルの首都タイタニアだったのである。私たちサトゥルの兵を陽動し、タイタニアから引き離すために凝った脚本を彼は描いた。私たちはまんまとそれに嵌ったのだ。

「あ、アティナ様?! し、しかし、橋を放棄しては!!」

「奴らはただの飾りだ! 橋を渡ろうなんて最初っから思ってねぇよ! こっからはできるだけ休まずにタイタニアを目指すぞ! 急いで荷物をまとめ、すぐに引き返すぞ!」

「で、ですがアティナ様!」

「黙れアルテミス!! 私に従え! 急いで戻るぞ!」

 私はアルテミスに対し、初めて本気で怒鳴った。それが功を奏したのか、只事ではないと思ったグラウコーピス軍は慌てて荷物を纏め始める。その様子に驚いたのか、橋を一緒に守っていたサトゥル第六師団の師団長が血相を変えて馬を走らせてきた。

「あ、アルテミス様! いきなりどうしたのでありますか?!」

 と、豪勢な鎧に身を包んだ師団長が問いかけるのだが、皆目見当もつかないアルテミスは困惑した顔をして、私のほうに視線を向けてくる。そんな不甲斐なくもあり、頼りない指揮官に代わり、私が答えてやった。

「悪いがグラウコーピス軍は陣を放棄して早急にタイタニアに戻る。お前たちはこのまま任務を全うしろ」

「お待ちください! 納得がいきません! 敵を目前にしてどうして背を向けるのですか?! 詳細をお聞かせください!」

「それはお前たちには答えられん。腰抜けとか、非国民とか、何とでも言うがいいさ。だが、どう言われても私たちはタイタニアに戻る。戻らねばならん!」

「い、いや、しかし! 上からの命令も無く勝手に退却などっ……! 敵前逃亡は死刑に値する重罪ですぞ!?」

「なら私を斬れ!! だが、それは全てが終わった後でな!!」

 私はそう叫んで、後片付けに没頭している兵士たちを更に叱咤して、その行動を早めさせた。彼らは訳が分からぬまま私に怒鳴られ、小首を傾げながら帰り支度を早める。野営テントは放棄し、食料と戦う道具、最小限の荷物だけを持って整列を始めた。私も自分の荷物を肩から提げた。どうしても、ぬいぐるみだけは置いていけない。

「第六師団はこのまま国境を守れ。お前たちもいなくなれば、あいつらがどう動くかわからん。だが、お前たちがここにいる限り、あいつらは絶対に国境を越えようとは思わないさ。行くぞ、アルテミス!」

「は、はい!」

 私は馬上にて呆ける第六師団の師団長をそのままに、アルテミスを呼び寄せ、早急に橋からタイタニアに向けて出発した。兵士たちも任務を放棄して帰還することに困惑していたが、上からの命令を受けては従わざるを得なかった。

「ティア、このことを伝書鳩につけてタイタニアへ」

「は、はい!」

 一方、戦線で急に生じた異常事態に、早速、本社へ連絡しようと試みるアフロディテとヘスティア。だが、その彼女らにも私は容赦なく叫ぶ。

「この情報を他に伝えることは絶対に許さん! 同時に、お前たちは私の許可無くグラウコーピス軍を離れることを禁ずる! 従わなければ断罪に処す!」

「な、なんですって?!」

 流石にアフロディテも眉間に皺を寄せて私の横に馬を走らせてきた。

「ちょっと! どういうつもりよ、アティナ!」

「理由はまだ言えん! だが、兵たちを危険に晒す行為は全て禁ずる!」

「き、危険ですって?! 本社に情報を伝えるだけよ?!」

「それが迷惑で危険だって言ってんだよ! もう黙れ!」

「な、何よ、その態度!!」

「身分を弁えろ、平民風情が! 黙って王族に付き従え!」

 それは私みたいな人間が発するには、到底思えない言葉だった。アフロディテも、まさか私の口からそんな言葉が出てきたことがショックだったのか、目を点にして何も言い返せなくなっていた。それもそうだ。さっきまで親友だの何だの言っていた関係であったのだ。それがたった少しの間で急に変貌を遂げたのである。だが、分かって欲しい。どうしても、そうせねばならない理由があったのだ。

「私が先頭を走る! なるべく立ち止まるな! 後に続け!」

 来たときとは違い、私が先頭に立って皆を率いた。来たときとは違い、最初から兵士たちには走ることを強制する。彼らは私の怒号による命令を受け、重たい鎧に息を上がらせながら走った。

「もぉ……なんだっていうのよ」

 一方、私に怒鳴られたアフロディテは眉を潜めながら皆に付き従っていた。

「あんなの……アティナじゃないよ」

「その気持ち、同感です」

 そう言うのはアフロディテの前を行くアルテミス。

「あんなの、私が好きになったアティナ様ではありません。アティナ様は誰にでも優しく、頼れるお人です。でも、今のあの方は何かに取り付かれた、別人です」

 彼女は悔しそうに、目尻に涙まで浮かべてそう言った。

「俺には何か理由があるとしか思えないけど……。皆を焦らせるために、有無を言わせないために怒鳴り散らしているようにしか見えないな」

 他方、冷静に分析するのは、アルテミスの隣を行く参謀ヘルメス。彼は遥か前を一人で行く私の背中を目で追いながら、これまでのことを踏まえた上で冷静に分析していた。

「でも、フロディアさんを怒鳴ったのは許せません! あとで懲らしめてあげましょう!」

 アフロディテの隣を行くヘスティアがそう言うと、アフロディテも手綱を握る手を締めて

「そぉね。これでロクでも無い理由だったらぶん殴ってやるわ。いいえ、それだけじゃあ物足りないわ。顔に落書きでもして新聞に掲載してやる」

「ええ。私が許します。そうしておやりなさい」

 アルテミスもクスクス笑って同調した。

 とにもかくにも、皆には意味がわからないまま、たった一人の女によって引っ張られたグラウコーピス軍は、王命、軍規に背き、死守しなければならない国境線を放棄して、サトゥルの都タイタニアを目指して出発した。

 

 

 

 走れ! 

走れ!! 

とにかく走れ! 

腸が腹の皮を突き破っても走れ!

 私の怒号がグラウコーピスの団内に轟き渡る。兵士も軍馬も、とにかく長い距離を走らされているせいで、疲労困憊状態だった。疲労や酷使により、血を吐くものも嘔吐するものもいた。これは止まることが許されない死の遠距離走大会のようなものだ。

 どんよりと、一雨来そうな曇天の下、私たちは幾つもの森の中を駆け抜けて最短距離でタイタニアを目指した。途中、砦にも立ち寄り、水の補給を受けながらも、そこに立て篭もっている兵士たちの無事は見届けた。砦が無事なのは、その防衛能力がジュピネル軍にとっては脅威である上で、攻めるメリットが何一つないからだ。

 いつしか、疲れた体に鞭打つ雨も降り出した。兵士たちは苦悶にも満ちた表情で濡れる鎧や服を気にしているが、私にとっては幸運の雨であった。この激しく大地へ降り注ぐ雨を隠れ蓑にすることで、万が一、敵が私たちのすぐ近くにいたとしても攻撃は愚か、発見さえも難しくなる。

 できるだけ落伍者を出さぬように注意をしながら、雨でぬかるんだ獣道にも等しいところを馬で駆け抜けた。

わけのわからぬまま、副詞団長である私の意見に身を任せたアルテミスやヘルメス、スーツ姿のアフロディテやヘスティアも、その肉体をずぶ濡れにし、可愛らしくくしゃみさえしながら、必死に馬と手綱にしがみついていた。

もう何時間走っただろう。兵士たちはそんな中でも遅れまいと、歯を食いしばって私に着いてきてくれる。だが、それももはや限界が近づいていた。息を上がらせ、泥道に倒れこむ兵士が出始めた。

「アティナ様! いつまで走るのですか?! 兵も疲れ果てております! いつ落伍者が出るかわかりません! どうか、情けを以って休憩か野営の許可をお願いします!」

 自分の部下たちの苦しそうな顔を見て、アルテミスはキリッと眉を吊り上げた顔つきで私の隣にやってきた。そう言われ、私は辺りの様子を見回して

「……そうだな。そろそろ夜だ。予想以上に移動できたし、この辺りで野営をしよう!」

「ありがとうございます!」

 田園地帯を抜けきった先にある、深い深い森の中で私は野営することを許可した。アルテミスが部下である私に野営を懇願してきたのだから、いつのまにか私たちの関係は完全に逆転していたことになる。まぁ、それもすぐに戻るだろう。

 野営地は黄葉の濃密な森の中を選んだ。その濃密な葉で、まず火を灯しても表からは見つからない、完璧な隠れ場所だった。

兵士たちは雨を凌ぐべく、紐を木々の間間に張り巡らせて布地を重ねた。その後、濡れた体をしっかりと拭く。そのあとで地面にへたり込んで限界間近であった身体を休めた。一方、アルテミスもびしょびしょの体では風邪を引くと考えたらしく、自身の周りの木に布を巻いて兵士たちの視界を遮った上で鎧を外し、服を脱いだ。いやいや、私の目の前で脱がんでも……。

「うぉ!?」

いやしかし、こいつ、服のノーブラだ。いや、その前にこいつの胸はなんだ? でかい……でかすぎるだろ、このヤロォ。私の手にも余るような乳房をぶら下げている。わずかに動くだけでもプルプルと震えてやがる……。

「あ、あまりジロジロ見ないでください、アティナ様……」

「あ……わ、悪い。つい……」

 私は私でずぶ濡れのまま、背の高い木が屋根代わりになる場所へ移動し、びしょびしょになった地図を丁寧に広げ、ランプの灯りを頼りに考えを張り巡らせた。お世辞にも私の持っている地図は大まかなものであって、完璧に測量を施した地図ではなかった。

「おそらく今いる場所はアポリオンの森だな。そこからタイタニアまでは……三十キロか。明日にはタイタニアに到着だ。間に合ってくれればいいのだが……」

 本当ならば早馬を飛ばしてタイタニアの様子を見たいところだったのだが、それは送り出した兵士をむざむざと殺すことになるだろう。私が行ってもよかったが副指揮官の身の立場上、それも適わない。

「ハーックションッ! うぅぅぅ〜。さ、寒いですぅ」

 暖かい毛布を体に巻きつけたアルテミスが鼻水を垂らしながら近づいてきた。

「ここは森の中だ。雨も大して降ってこないよ。ランプの火にでも当たってろ」

「ふぇぇ」

 ランプを差し出してやれば、雀の涙ほどのその炎に手をかざし、ブルブルとアルテミスは身を震わせていた。まぁ、お姫様の身の上で今日はよくやったよ。抱きしめてやってもよかったが、誤解と偏見を生みそうだったのでやめた。

「でも、どうしたんですかぁ? 急に橋を放棄するだなんて……。兵たちも戸惑っていたし、貴方に怒鳴られて……フロディアさん、傷ついてましたよ?」

「ん? ああ、あとで土下座でもなんでもするさ」

 と、私が大木の根っこに鎧姿のまま腰を下ろすと、

「貴方の土下座なんかいらないわ。少しの価値もないもの。で、いい加減、理由を話してはもらえないかしら?」

 と、私の右側から、ビショビショになったアフロディテが、タオルを頭に乗せた姿でやってきた。せっかくのクルクル髪も、濡れたおかげで形は崩れ、頬や首などにくっついてしまっている。

「まさか、まだ嫌だなんて言わないでしょうね?」

「…………」

「これ以上、拒否するなら、私は貴方に本気で反旗を翻さなくてはならないわ」

 それは封印していた剣を抜くということか?

 すると、私の傍に、今度はヘルメスとヘスティアまでやってきて、理由を問いたいような顔を浮かべ、私を見つめてきた。また、私が怒鳴るのではないかと不安がってもいたが、雨のおかげか、私の頭に溜まった熱もすっかり取れ、

「わかった。まぁ、ここまで来れば情報が漏れるなんてことはないだろう。だが、一般兵には伝えるな。動揺が広がる。アルティ、下士官クラスまでをここに集めろ。理由を説明する」

「は、はい!」

 アルテミスは喜色満面の顔をして、すぐに下士官クラスまでを召集した。彼らもまた理由を求めていたのだろう。濡れた体を放ってまで、私の周りに集まってきたのである。一般兵には、悪いけれども付近に近づかないように厳命させた。

 舞台が整い、皆が今か今かと待ち構える中、ランプに照らし出された私は口を開いて事情を説明してやった。果たして、全て終わったとき、その過酷過ぎる現実を、彼らは受け入れることができるだろうか。おそらくは彼らにとっては、泣く以上の絶望が襲い掛かるに違いない。私だって辛くて仕方がないのである。

「私がまだジュピネルの軍学校にいたころの話だ。その当時、私はアイレスという男から戦いの方法、いわゆる戦術を学んでいた。どう陣を築き上げれば戦に勝てるようになるのか、どうやって最小限の被害、最小限の経過日数、最小限の移動で勝利を勝ち取れるか。そんなことばかりを教えられて、正直、私の頭でも三分の一すら理解できなかったよ」

「アティナ様?」

 身の上話よりも核心を。そう訴えているアルテミスの目。

「アイレスは授業をする前に、必ず私にこう言ったんだ。物語は淡々と進むよりも大曲りである方が盛り上がる。紆余曲折を経ての物語こそ読み手の気持ちを高ぶらせる……と」

 私は濡れた前髪をかきあげてヘアピンで止める。

 それから、スカートのポケットより、伸びる指揮棒を取り出して地図に先端を置いた。

「いいか? まずは周辺国家を考えよう。ジュピネル、サトゥルが東西の国だとすると、その北には小国家のアース、南には同じ小国家のマキュリウス。この二つの国が私たちの国を挟む形で存在している。これは常識だな? まさか、知ってるよな、アルテミス?」

 まるで学校に行きたての子供に対する質問のよう。馬鹿にしないでと言わんばかりにアルテミスは頬を膨らませながらうなずいた。怒った顔も可愛いよ、とでも言ってほしいのか?

「勿論です! アースはサトゥル側、マキュリウスはジュピネル側の同盟国家です!」

「そう。だから、アイレスはこう考えた。この同盟を利用し、人知れずにマキュリウスを通って北上。一気にタイタニアを目指すことができないものかと」

 私が指揮棒の先端をポンとタイタニアに落とすと、アルテミスたちは絶句した。

 もうわかっただろう。今までのこと全てが策略であり、謀略であることを。

「タイタニアには常に八千の兵が常駐している。よって、たとえマキュリウスを通って攻め込めたとしても、頑丈な守りの上で大量の兵。敗北は日の目を見るよりも明らかだ。しかし、嫁入りの出迎え時に起こった戦闘を私とアルティがタイタニアに報じたことにより、タイタニアには警戒心が生まれた。そこに国境での不穏な動きありと一報が入る。確かな情報もなく、そうと聞いただけで私たち、グラウコーピス軍を含めた七千の兵が国境近くにかかる三つの橋へと派兵された。水際防衛のためにもこれは悪手ではない。だが、この大規模な移動でタイタニアに残る兵力はわずかに千人だ」

 ゴクリ。

 ランプのおぼろげな光の中、アルテミス以下指揮官たちはゴクリと唾を飲み込んだ。

私も本当は言いたくない事実をしゃべることによって、気分がだんだんに悪くなってくる。事実を知ったときに浮かべるであろう、アルテミスたちの表情を想像するだけで、私は声をしぼませてしまう。しかし、ここは耐えて事実を知らせなければ。私は躊躇いと必死に戦いながらも説明を続けた。

「ジュピネルの総兵力は八千人。おそらく国境地帯には全部で千にも満たない兵を送っているはずだ。それを担当しているのは旗色から第六師団だと思うが、今はそんなことどうでもいい。千二百名を三つに分け、四百程度にしても、狭い路地を長々と行軍してくれば、それだけで長い隊列から、大軍と錯覚してしまう。こちらはその策略に乗って、迂闊には攻められなかった。そして、ひたすら川を挟んで対峙し続けることで、多くの時間を稼ぐことができるというわけさ。私に宣戦布告は二日後などと言ってきた理由も、それと同時にタイタニアを攻めるため。そして、私が万が一気づいたときでも手遅れとするため」

「じゃ、じゃあ!!」

アルテミスが大きな口を開けた。私は反対に口をすぼませたまま、黙ってうなずいた。

「タイタニアは今、おそらくは五千の兵力と必死に戦っているはずだ。たった千の兵力で」

そして、抜け目のないアイレスや彼の優秀な息子フォベロスとダイモスのことだ。

 私の断言にアルテミスは思わず口を手で覆って泣き出した。指揮官たちも大木を手で叩いたり、「くそっ!」などと大きな声で叫んでいた。ヘルメスやヘスティアは勿論、アフロディテさえも口を手で押さえ、衝撃に目を丸くした。

その憤慨の声は一般兵にも勿論届く。彼らはなぜ指揮官たちが嘆き、怒っているのかは全くわからなかった。しかし、そのうち、否が応でも知ることになるだろう。現実という名の絶望とともに。

「私が国を追われたのも、殺されかけたのも、私がアイレスの元で一番の知識を詰め込み、その上で反逆心を見せていたからだろう。私をサトゥル領内で殺せばそれだけでも正義の戦争という大義名分は立つ。慎重かつ聡明なアイレスのやることだ、念には念を入れた工作なのだろう」

「そ、そんなぁ!! で、でもタイタニアならきっと防衛能力に優れているはずです! 私たちが一刻も早くに駆けつければ!」

私は一瞬、希望の見えたアルテミスに厳しい現実を突きつける。確かに、普通の状態であれば、堅牢なタイタニアの城壁で敵の波を食い止めることができるだろう。私たちが救援として駆けつければ、挟撃にもできる。だが、その希望の戻った問いかけにも私はしっかりとした現実を抱えていた。アイレスと二人の息子たちは抜け目というものがない。

「タイタニアは身分証もなしに入城できる方針だったよな? 経済と人の流動性を円滑に促進させるために」

「え? ええ……」

 アルテミスの顔が、再び緊張で強張った。

「アイレスは戦になる前に商人や旅人と偽って、タイタニアの街中に特殊部隊を放り込んでおいたはずだ。奴らは宣戦布告と同時に特殊部隊が門を開ける。門が開けば、もはや守りも弱弱しい。五千と千だ。そうなったら全く勝負にならねぇよ」

 私も最後には大木をその拳で殴りつけていた。

「予測が正しけりゃ、タイタニアは今日中に陥落するはずだ。陛下も間違いなく殺される。何の罪もない一般人たちも悲壮な最期を遂げるだろう! くそっ! なんでもう少し早くに気づけなかった! 見破る種は幾らでもあったはずだっ!!」

 爪に肉を食い込ませ、歯を食いしばった私は連続して大木を殴っていた。メキャメキャと筋肉や骨、関節が痛めつけられているのは周囲の者たちでも理解できたであろう。案の定、アルテミスがすぐに私の腕を掴みかかった。

「や、止めてください、アティナ様! 大切な御手じゃないですか!」

分かっている。剣を振るう大切な手だ。だが、そうでもしなければやりきれなかった。

私は、自分の判断に常日頃から自信を持ってきていたのだ。それなのに、私はまだアイリスの掌の上で成すがままに踊っていたのである。この屈辱は人生最大最高のものとなっていた。

「それで……これからどうするんです?」

 眉を顰め、目尻に大粒の水滴を貯めたヘルメスが尋ねる。

「一応、タイタニアの様子を見てみようと思う。タイタニアの北にある小山からならば敵に見つかる心配はない。十中八九、タイタニアは落城しているだろう。だけど、たとえそうだとしても、私たちはそれを胸に、ジュピネルへ戦いの牙を向けることができるはずだ! たとえ、陛下や王族が皆殺しにされていたとしても、ここにはまだお前とヘルメスがいる!」

 私はそう言ってアルテミスとヘルメスの手を、柔らかいながらも冷えてしまった手を強く握った。

「お前たちがいるんだよ……アルティ、ヘルメス……」

「「……アティナ様」」

「お前たちが最後のサトゥルの希望だ。私はお前たちを全力で守る! こんな私を暖かく迎え入れてくださった陛下や国民のためにも、最後の希望を失ってたまるものか!」

 その私の一声に、集まった兵士たちは揃って頷いた。

「そうですよ! 陛下がお亡くなりになられたとしても、ここにはまだサトゥル王家の血が残っている!」

 ヘスティアが自信満々に胸を張って言った。

「そぉね。もし本当に陛下がお亡くなりになっていた場合でも、どちらかが王位につけば、問題は無いのよね。戦争遂行の条件は、王位継承者が全員死ぬこと。まだ勝利条件を満たしてはいないわ」

 アフロディテも、腰に手を当てて満面の笑みを浮かべる。

「ああ。その通りさ。私たちはまだまだ戦える。きっと、皆の仇は取る」

私は、都が落城した際の悲劇がどういうものか、頭の中で思い浮かべながら二人の手を握っていた。

都が落城すれば、王族だけではなく、タイタニアの人々に対する残党狩りはおそらく空前絶後のものとなるだろう。ここにいる兵たちの妻や娘たちは血気盛んなジュピネルの男たちの慰み者となり、子供は奴隷として連れ去られ、老人や病人は処刑されるだろう。その仇を、きっと取ってみせる。ジュピネルのバカどもに、きっと神の裁きを与えてみせる。

だが、問題はある。このままタイタニアに向かって進撃した際、都の無残な姿を見た後でも、グラウコーピス軍は剣を取って冷静な戦いができるのだろうか。衝撃で頭に血が上り、目の前の敵を討つことばかりを考えてしまうのではないだろうか。私も、今はなんとか冷静に戻れたが、橋を守っていたときは完全に頭に血が上っていた。また同じようなことが、タイタニアを見たときに起こってしまうのではないだろうか。

 まだまだ数多い不安を抱えていたが、私は、残された最後の希望である姉弟が笑顔を見せてくれたことに、ホッと安堵のため息を零した。事実を教えられた兵士たちも、守るべきものがそこにあることを改めて知り、強くその胸の中で闘志を奮い立たせた。

さて……明日は絶望か、それとも狂気か。

私はそんなことを思いながら、運命の日の前夜を過ごした……。

 

 

 

その日のタイタニアはまさに地獄だった。

突然、都の南方より現れた大軍に必死の応戦を見せたサトゥルの軍。しかし、町人に成りすました特殊部隊によって門が開けられたら最後であった。怒涛の勢いで雪崩れ込んできたジュピネルの兵士たちは、自由気ままに殺戮、略奪、陵辱を繰り返した。

これが戦争の現実。勝ったものは負けたものからすべてを奪い取ってもかまわない。それが戦争であり、正義だった。

愛すべき人を目の前で殺されながらも、駆け寄れずに兵士たちに犯され、その汚らわしい子種を植え付けられ、気が狂ったように泣き叫ぶ清楚な娘は……。

年端もない、可愛い我が子を遊び半分で無残にも殺害された上で、自らも斧で首を刎ねられようとしている男は……。

王族を守れず、家族も守れず、盛者必衰のごとく滅びようとしている祖国をただただ嘆き、さらには涙を催して、自らの首に刃を突き立てる兵士は……。

 真っ白で美しかった城には炎が宿り、忽ちに猛火を上げた。その炎の中でアルテミス、ヘルメスの兄弟である王子は殺害され、平穏な生活を送っていた王女たちは悉く兵士たちの汚らわしい体で陵辱された。

悲惨な息子、娘たちの末路を絶句しながらも目の当たりにした国王クロノスも、ジュピネルの将、オーディウスによって情け容赦なく殺害された。その首は奪われ、燃え盛るマーズトラス城の城門の前に掲げられた。

 そう、まさに地獄。圧倒的な暴力にものを言わせた、秩序もへったくれもない地獄であった。神はどうしてこうも神に近い人という存在に鬼畜さを持たせるのか。それとも、神の複製である人は、所詮は神の娯楽の一つにすぎないのだろうか。

タイタニアの篭城戦。その前兆も、その戦いも、まるで前線を守る六千のサトゥル軍には知られなかった。敵の目を川と橋、国境に向けさせたアイレスの見事な完全勝利である。私が気づいたとしても、それはきっと彼の公算の一つであろう。

 戦争は始まった直後からすでに末期だったのだ。抗う術など残されていないほどの終焉間近のドラマだった。その立役者は私の師アイレス、傲慢な父、最期に気ままな神。この最強トリオを前にしての逆転勝利は、タイタニアの人々には不可能であった。例え、私であったとしても。

 だが、タイタニアの外では、まだサトゥルの光は途絶えてはいない。その光は、私の腕の中で明日のためにスヤスヤと寝入っている。この希望の光は決して絶やさせない。何が何でもこの光を守って見せる。

 

 

 

 


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